「背景をぼかして被写体を目立たせて」——Photoshopでのこうした編集が、テキスト一言で完了する時代が来ました。
2026年3月10日、AdobeはPhotoshopにAIアシスタントの公開ベータを導入しました。2025年10月のAdobe MAXでプライベートベータとして初公開された機能が、ついに一般利用可能になっています。
対応はWeb版とモバイル版で、デスクトップ版への展開は未定。4月9日までは有料Photoshop会員に無制限生成が提供され、無料ユーザーも20回まで試用可能です。
AIアシスタントの基本 — 2つの編集モード
PhotoshopのAIアシスタント画面
AIアシスタントはPhotoshop内のチャットインターフェースで、テキスト(モバイルは音声も可)で編集指示を出せます。特筆すべきは2つのモードが用意されている点です。
| モード | 動作 | 向いている人 |
|---|---|---|
| Automatic | 指示を受けて一括で編集を完了 | 結果を素早く得たいプロ |
| Guided | 各ステップを説明しながら段階的に実行 | 操作を学びたいユーザー |
元SEとしてAIツール導入を推進している立場から言うと、Guidedモードが興味深いです。「いまAIが何をしているか」を1ステップずつ見せてくれるので、Photoshopの操作を知らない人がAIに教わりながら編集するという新しい学習体験になります。
対応する編集の例
- 不要物の除去:「Remove the person in the background」
- 色調整:「Make the sky more dramatic」「Warm up the shadows」
- 背景処理:「Blur the background to isolate the subject」
- ライティング:「Add rim light to the person」
AIは画像内容を分析し、適切なツールと設定を自動で選択します。結果に対して「もう少し控えめに」「やっぱり戻して」と追加指示も可能です。
現時点のベータは英語入力が基本です。「blur the background」「remove this object」のように英語で指示するのが確実。日本語対応は正式版での展開が期待されます。
AI Markup — 描いて指示する新しいアプローチ
AI Markupの操作イメージ
AIアシスタントと同時に公開ベータが始まったAI Markupは、画像に直接描画してからテキストで指示する機能です。
従来のワークフローとの違い
テキストだけで指示すると「背景のどの部分?」とAIが迷いそうですが…
まさにその問題を解決するのがAI Markupです。変更したい箇所を丸で囲んだり矢印で指したりしてから、テキストで意図を伝えます。「場所の指定」と「変更内容の指定」を分離できるので、テキスト単独より格段に精度が上がります。
| 比較項目 | 従来の選択範囲+Generative Fill | AI Markup |
|---|---|---|
| 選択の精度 | ユーザーが正確にマスクを作成 | ざっくり描画+テキストで補完 |
| 操作の手軽さ | ツール切替・パラメータ調整が必要 | 描いて書くだけ |
| 向いている場面 | 精密な合成・切り抜き | ラフな修正・方向性の確認 |
| 学習コスト | Photoshopの操作知識が前提 | テキスト入力ができれば使える |
AI Markupは「クライアントへのラフ提案」や「スマホで素早く方向性を確認」する場面で真価を発揮します。一方、1ピクセル単位の精度が求められる商業レタッチでは、従来のマスクワーク+手動調整の方が確実です。
モバイルの音声入力 — 出先での編集が変わる
モバイルでの音声入力
モバイル版のAIアシスタントは音声入力に対応しています。タイピングの代わりに「Remove the wire on the left side」と声で伝えるだけで編集が走ります。
撮影現場でクライアントに仕上がりイメージを見せるのに使えそうですね。
その通りです。撮影直後にスマホで「背景を差し替えたらこうなります」とラフを見せる、という使い方はかなり実用的です。クライアントとの認識合わせが早い段階でできれば、本修正の手戻りも減ります。
Generative Fillの外部モデル対応
Generative Fillのモデル選択
今回のアップデートと並行して注目すべきが、Generative Fillへのサードパーティモデル統合です。Adobe Firefly以外のAI生成モデルが選択可能になりました。
| モデル | 開発元 | 特徴 |
|---|---|---|
| Adobe Firefly | Adobe | 商用利用の安全性が保証。IP Indemnity適用 |
| Nano Banana 2 | スタイライズされた表現に強い | |
| Flux.2 [pro] | Black Forest Labs | テクスチャのディテール、リアリスティックな生成 |
| Image Generation | OpenAI | 多様な表現力 |
| Gen-4.5 | Runway | 動画生成技術をベースにした画像生成 |
コンテキストタスクバーのプロンプト欄横にあるドロップダウンメニューからモデルを切り替えられます。
商業レタッチではFireflyが安牌です。Adobeの知的財産補償(IP Indemnity)が適用されるのはFireflyのみ。クライアントワークでの著作権リスクを考えると、外部モデルは個人制作やアート用途での実験向きです。
外部モデル使用時はAdobeのIP Indemnity(知的財産補償)が適用されない可能性があります。クライアント納品物に使う場合は利用規約を必ず確認してください。
レタッチ実務への影響 — 何が変わり、何が変わらないか
レタッチワークフローの変化
- ラフ案の高速生成:クライアント提案時に複数パターンをテキスト指示で素早く作成
- 定型修正の効率化:電線除去、背景差替え、ゴミ消しなどの単純作業
- モバイルでの応急処理:撮影現場でスマホから方向性確認
- 学習ツールとしての価値:Guidedモードで「AIが何をしているか」を学べる
- 精密な肌レタッチ:周波数分離やドッジ&バーンの制御はまだ手動が上
- カラーマネジメント:印刷向けの色の微調整は数値指定の方が確実
- 複雑な合成:レイヤー構造の設計・管理はAIに任せにくい
- デスクトップ未対応:メインの作業環境で使えないのが現時点の最大の制約
ワークフローの変化イメージ
| 工程 | 従来 | AIアシスタント活用後 |
|---|---|---|
| 方向性検討 | 手動で数パターン作成(30分〜) | テキスト指示で複数案生成(5分〜) |
| 範囲選択 | なげなわ・クイック選択・パス | AI Markupでざっくり指定 |
| 不要物除去 | スポット修復+クローンスタンプ | 「Remove this」と指示 |
| 背景処理 | コンテンツに応じた塗りつぶし+手動修正 | 「Change background to ○○」 |
| 最終調整 | 調整レイヤー・トーンカーブ | 手動のまま(変わらない) |
AIアシスタントが進化したら、レタッチャーに依頼する必要はなくなりますか?
SNS用の簡易修正であればAIだけで対応できる場面は増えます。ただし、広告・雑誌掲載レベルの品質を求めるなら「AIで下処理→プロが仕上げ」という役割分担が現実的です。むしろ、AIを使いこなすレタッチャーの方が生産性で差をつけられる時代になります。
まとめ
- 公開ベータ開始:2026年3月10日、Web版・モバイル版で利用可能(デスクトップ版は未定)
- 2つのモード:Automatic(一括実行)とGuided(ステップごとに説明)
- AI Markup:画像に直接描画+テキストで、指示の精度を向上
- 音声入力:モバイル版で声による編集指示に対応
- 無制限生成:有料会員は4月9日まで。無料ユーザーも20回試用可能
- Generative Fill:Firefly以外にNano Banana 2、Flux.2 Pro、OpenAI、Runway等を選択可能
- 商用利用:IP IndemnityはFireflyのみ適用。外部モデルは規約確認が必要
写真編集のインターフェースが「手動操作」から「対話」へと転換する大きな一歩です。ベータの期間中に特性を把握しておくことで、正式リリース後のアドバンテージになるでしょう。
参照:Image Editing Just Got Smarter with AI in Photoshop & Firefly — Adobe Blog
よくある質問
2026年3月時点ではWeb版とモバイル版のみです。デスクトップ版への搭載時期はAdobeから公式発表されていません。メインの作業環境がデスクトップのプロにとっては、当面はWeb版で試して特性を把握しておくのが得策です。
Creative Cloudの有料Photoshop会員は4月9日まで無制限生成が可能です。無料ユーザーも20回まで試用できます。ベータ終了後はジェネレーティブクレジットの消費制に移行する見込みです。
AdobeのIP Indemnity(知的財産補償)はFireflyモデル使用時のみ適用されます。Nano Banana 2やFlux.2 Proなど外部モデルの場合は補償範囲が異なるため、商用利用時はAdobeの利用規約を必ず確認してください。
現時点のベータでは英語入力が基本です。「blur the background」「remove this person」のように英語で指示するのが確実です。正式版での日本語対応が期待されますが、具体的な時期は未発表です。
SNS投稿用の背景変更や不要物除去はAIアシスタントで十分対応できます。一方、広告・雑誌掲載レベルの肌レタッチ、精密な合成、カラーマネジメントが求められる案件はRetouch Inkのような専門のレタッチ会社に依頼する方が確実です。